別府の温泉街を歩いていると、車いすの方が困っている場面に出くわすことがあります。
道路の段差や、入りづらそうな店構え。
そんな光景は、私たちの地方都市が抱える障がい者支援の課題を象徴しているように感じます。
私は長年、地方新聞社の記者として福祉関連の取材を重ね、その後は福祉団体での活動を通じて、地方における障がい者支援の現状と向き合ってきました。
今回は、地方ならではの課題とその克服法について、現場での経験を交えながらお伝えしていきたいと思います。
目次
地方特有の障がい者支援の現状
日が暮れかかった別府市の住宅街。
高齢の母親と二人暮らしの障がいのある青年が、「放課後等デイサービス」を終えて帰宅する時間です。
しかし、最寄りのバス停から自宅までは徒歩15分。
母親は仕事で迎えに行けず、ヘルパーの確保も難しい状況が続いています。
地域格差がもたらす支援の壁
都市部と地方では、障がい者支援の環境に大きな差があります。
例えば、東京都心部では、複数の福祉サービス事業者から自由に選択できる環境が整っています。
都市部の支援体制の一例として、あん福祉会が運営する障がい者支援施設では、就労支援から生活支援まで包括的なサービスを提供しています。
このような充実した支援体制が整っている一方で、地方都市では選択肢が限られ、場合によっては必要なサービスを受けられないこともあるのです。
一方、地方都市では選択肢が限られ、場合によっては必要なサービスを受けられないこともあるのです。
具体的な違いを見てみましょう。
項目 | 大都市圏 | 地方都市 |
---|---|---|
福祉サービス事業者数 | 多数の選択肢あり | 限定的 |
専門職の配置 | 充実 | 不足傾向 |
移動支援サービス | 24時間対応可 | 時間帯限定 |
緊急時の対応 | 複数の受け入れ先 | 限られた選択肢 |
このような格差は、地方特有の課題を生み出しています。
人口密度が低く、公共交通機関も限られている地方では、サービスの提供そのものが困難を極めることがあります。
地域社会の理解と協力の不足
私が取材で訪れた地方の小規模自治体では、障がいのある方々への理解が十分とは言えない状況に度々遭遇しました。
「うちの地域には障がい者はいない」
ある町内会長からそう聞かされたことがあります。
実際には、その地域にも複数の障がいのある方が暮らしていました。
ただ、外出の機会が限られているため、地域住民の目に触れる機会が少なかったのです。
このような認識の不足は、支援の停滞を招きかねません。
例えば、地域の夏祭りや運動会といった行事でも、障がいのある方々への配慮が不十分なことが少なくありません。
バリアフリーの設備はもちろん、参加を促す声かけや、必要な支援の提供といった面でも課題が残ります。
地方における障がい者支援の課題
資源の不足と専門性の欠如
地方における最も深刻な課題の一つが、専門職の不足です。
ある地方都市の福祉施設では、理学療法士の募集を2年以上続けていますが、応募者がいない状況が続いています。
給与面での待遇改善を試みても、都市部との競争には太刀打ちできないのが現状です。
このような専門職不足は、サービスの質にも影響を及ぼしています。
障がい者本人の孤立感と社会参加の課題
私が取材で出会った20代の女性は、こう語ってくれました。
「地方だと、同じような障がいを持つ仲間に出会う機会がほとんどありません。
SNSでつながることはできても、実際に会って話をしたり、一緒に活動したりする機会が欲しいです」
地方特有の人口の少なさは、ピアサポートの機会も限定してしまいます。
また、就労の機会も都市部に比べて限られており、社会参加への大きな壁となっています。
課題克服に向けた具体的なアプローチ
地域資源を活用した包括的支援
しかし、このような課題に対して、地方には地方なりの解決策があります。
私が関わった別府市での取り組みをご紹介しましょう。
地域の高齢者サロンを運営していた民生委員さんが、空き時間を活用して障がい者の居場所づくりを始めました。
これが地域の共生型サロンとして発展し、現在では高齢者と障がい者が自然に交流する場となっています。
このように、地方の「顔の見える関係性」を活かした支援の形が生まれています。
テクノロジーと福祉の融合
地理的な制約を克服する手段として、テクノロジーの活用も進んでいます。
例えば、大分県では遠隔での相談支援システムを導入し、専門職不足を補っています。
導入されているシステム | 活用方法 | 効果 |
---|---|---|
オンライン相談システム | 専門職との遠隔相談 | 移動時間の削減、相談機会の増加 |
ICT支援ツール | 生活記録の共有 | 支援者間の情報連携強化 |
スマートフォンアプリ | 緊急時の連絡手段 | 24時間の安心確保 |
特筆すべきは、これらのシステムが比較的低コストで導入可能な点です。
地方の限られた予算でも実現できる解決策として、注目を集めています。
地域住民と支援者の意識改革
支援の質を向上させるには、地域全体の意識改革も重要です。
別府市では、地域の公民館で定期的に「やさしい街づくり講座」を開催しています。
この講座では、障がいについての基礎知識だけでなく、実際の支援方法も学べます。
参加した住民からは、「これまで避けていた関わり方が分かった」「できることから始めてみたい」という声が上がっています。
成功事例と学ぶべきポイント
国内の地方都市での成功事例
島根県出雲市の取り組みは、特に参考になります。
人口約17万人の地方都市である出雲市では、地域の企業と連携して障がい者の就労支援を行っています。
農業法人での野菜栽培や、旅館での清掃作業など、地域の特性を活かした仕事づくりに成功しています。
国外の地方コミュニティでの実践例
オーストラリアのある地方都市では、「コミュニティ・インクルージョン・オフィサー」という役職を設置し、障がい者と地域をつなぐ取り組みを行っています。
この制度は日本の地方都市でも十分に応用可能です。
地方福祉と観光の融合による新しい視点
観光と福祉の共存が生む可能性
別府市での経験から、私は観光と福祉の融合に大きな可能性を感じています。
観光地ならではのバリアフリー整備は、地域住民の生活も豊かにします。
また、観光客として障がいのある方々を迎えることで、地域の理解も自然と深まっていきます。
温泉地・別府市から考える福祉観光モデル
別府市では、「ユニバーサルツーリズム」の考え方を取り入れ、誰もが楽しめる温泉地づくりを進めています。
例えば、車いすでも入浴可能な温泉施設の整備や、視覚障がい者向けの温泉体験ツアーなど、独自の取り組みが始まっています。
このような取り組みは、観光収入の増加と福祉の充実という、一石二鳥の効果をもたらしています。
まとめ
地方における障がい者支援には、確かに多くの課題があります。
しかし、地域の特性を活かした解決策は必ず存在します。
私たちにできることは、以下の3つから始められるのではないでしょうか。
- 地域の資源を見直し、できることから始める
- テクノロジーを効果的に活用する
- 観光などの地域の強みと福祉を結びつける
最後に読者の皆さまへ。
あなたの地域でも、できることから始めてみませんか?
小さな一歩が、誰もが暮らしやすい地域づくりにつながっていくはずです。
最終更新日 2025年7月9日 by meisho